Le Pere 父

作:
 フロリアン・ゼレール
演出: ラディスラス・ショラー
出演: 橋爪功、若村麻由美、壮一帆、太田緑ロランス、吉見一豊、今井朋彦
観劇日: 2019年2月12日(火) 19:00
上演時間: 1時間50分(休憩なし)
劇場: 東京撃術劇場 シアターイースト
チケット代: 7,000円(H列) [パンフレット代:1,000円]


【感想】

チラシには「哀しい喜劇(コメディ)」とありましたが、私には途中から「怖さ」の方が勝った舞台でした。

物語は、認知症を患っている父・アンドレ(橋爪功さん)のもとに、娘・アンヌ(若村麻由美さん)が訪れるところから始まります。
腕時計をヘルパーに盗まれたと憤るアンドレに、アンヌは「自分は、近々、彼氏とロンドンへ移住しなければいけない」と言い、新しいヘルパーを雇おうとしますが……。

最初の方は、アンドレが引き起こす"勘違い"を笑って観ていましたが、ある時、帰宅したアンヌが壮一帆さんに変わり、ここから我々観客もアンドレと同じ"混乱”を共有し始めていきます。
似たようなシチュエーションが繰り返されたり、時間軸が前後したり、アンヌの発言が矛盾していたり、何が現実で何が空想なのかが分からなくなってきます。
これを自分の身に置き換えると、とても怖ろしく、だんだん笑えなくなってしまいました。

混乱や戸惑いから生じる怒り・焦り・恐怖といったものが、追体験のように伝わってきて、改めて橋爪功さんの凄さを実感しました。
特に、ラストシーンでアンドレが襲われる孤独感……観ているこちらもいたたまれなくなりました。

演出も、パーっと照明が強くなってから暗転するのが、記憶が白く霞んで、ふっと途切れる様を、とても印象的に表現していたように思えます。

ともすれば暗くなりがちなテーマの中で、アンドレ(橋爪功さん)の頑固ながらも飄々としたキャラや、新しいヘルパー・ローラ(太田緑ロランスさん)の屈託のなさが、救いになりました。