ザ・ウェルキン

ザ・ウェルキン

作: ルーシー・カークウッド
演出: 加藤拓也
翻訳: 徐賀世子
出演: 吉田羊、大原櫻子、長谷川稀世、梅沢昌代、那須佐代子、峯村リエ、明星真由美、那須凜、西尾まり、豊田エリー、土井ケイト、富山えり子、恒松祐里、土屋佑壱、田村健太郎、神津優花、段田安則(声)
観劇日: 2022年7月11日(月) 13:30
上演時間: 第1部(1時間5分) / 休憩(15分) / 第2部(1時間10分)
劇場: シアターコクーン
チケット代: S席 11,000円(XC列:最前列) [パンフレット代:1,000円]


【感想】

若手からベテランまで揃った贅沢なキャスト陣。
だから観応え十分なんですが、なんとも救いがないお話で……。

ハレー彗星が近づいている1759年。イギリスの田舎町。
サリー(大原櫻子さん)が、少女殺害の罪で絞首刑を言い渡されます。
しかし、彼女は現在妊娠中だと主張。
この時代、妊娠している女性は極刑を免れることができるため、その真偽を判定すべく、12人の女性が集められます。
なかなか妊娠の確証が得られず、皆がやりかけの家事のことなどが気になって早く帰りたいと思っている中、助産婦のエリザベス(吉田羊さん)だけは、サリーの身を案じますが……。

まず、妊娠中の女性は死刑を免れると聞いて、「出産した後も死刑にならないの?」とか「じゃあ出産したばかりの女性が罪を犯したらどうなるの?」とか疑問が湧きましたが、まあそれは置いといて劇に集中しました(妊娠中の女性が死刑を免れる背景については、パンフレットに載ってました)。

12人が集まって、侃侃諤諤・喧々囂々するあたりは、さながら『十二人の怒れる男』のようです。
『十二人の・・・』と違うのは、
  • 12人が女性であること。
  • 判決はすでに下されていて、12人が判断するのは、妊娠しているかどうかだけということ。ただし、妊娠していないと判断した場合は、死刑が待っている。
  • 被告が12人と一緒にいること。
  • 12人および被告のほとんどが顔馴染みであること。
でしょうか。
12人全員の意見が一致しないといけないというのは、『十二人の・・・』と同じです。

第一幕は、この論争劇が見ものとなります。
吉田羊さんは、映画でいえばヘンリー・フォンダ(陪審員8番)の役どころでしょうか。
凛としていて、正義感あふれる姿は、吉田羊さんにピッタリ。
鷲尾真知子さんの代役として出演されている長谷川稀世さんも、一人だけ高貴なご婦人(後に本当の正体がわかりますが)といった出立ちがしっくりきていて、こちらは陪審員4番的な立ち位置でしょうか(ヘンリー・フォンダの敵役?)。

このまま論争劇で終始するのかと思いきや、第二幕に、ある秘密が暴露され、一気に様相が変わってきます
最終的に男性の医者がやってきて、妊娠しているかどうか判断するんですが(じゃあ何で最初からそうしなかったの?とは思いますが)、もう一つの見せ場、最大の見せ場は、12人が退場してから訪れます。

このシーンの大原櫻子さんが凄かったですね。
前半は、不貞腐れたり、苛立ちを露わにしたりといった態度が多かったんですが、優しいお顔立ちなので、ちょっと似合わない感じも抱きつつ観ていました。
が、このクライマックスのシーンは、何とも胸が痛くなるような……。
詳しく書くとネタバレになってしまうので書けませんが、なんだろう、よく「社会が悪いから」みたいな言い方がありますが(個人的には、この言い訳は好きじゃないですが)、でも、時代や育った環境が違えば、こんなことにはならなかっただろうにと可哀想になってきます。

それは、女性であるが故の様々な"不利益"とでも言うんでしょうか。
望まない妊娠・出産の悲劇とでも言うんでしょうか(もしかしたら、ここらへんは、アメリカで議論になっている中絶禁止の是非についても問題提起しているのかな)。
もちろん、だからと言って、罪を犯していいとは言いませんが(劇中では被害者のことがあまり描かれないので、どうしてもサリーの方に感情移入してしまいます)。

建物の外からは絞首刑を望む群衆の声が聞こえてきます。
この時代、死刑執行は民衆の眼前で行われ、それが一種の見せ物的な娯楽?のように扱われていたんでしょう。
残酷だと思う一方、同じことが今ではSNS上で行われているんだと気付かされます。
そして、救いようのない結末が……。
表題の「ザ・ウェルキン(The Welkin)」って、「大空、天」という意味なんですね。
重いというより、やり切れなさが強く残る舞台でした。


演出は、「劇団た組」の加藤拓也さん。
新進気鋭と言っていいんでしょうか、まだ若いのに、よくこのキャスト陣をまとめ上げられたなと感心した次第です。
た組の舞台は、いくつか観たことがありますが、観客をビクッとさせる演出がチラホラ(エンディングで実際の車のクラクションを大音量で響かせたり)。
この舞台も、一幕の最後にビクッとさせられました 笑。