ツダマンの世界 ツダマンの世界

作・演出: 松尾スズキ
出演: 阿部サダヲ、間宮祥太朗、江口のりこ、村杉蝉之介、笠松はる、見上愛、皆川猿時、吉田羊、町田水城、井上尚、青山祥子、中井千聖、八木光太郎、橋本隆佑、河井克夫
観劇日: 2022年12月14日(水) 13:00
上演時間: 第1部(1時間25分) / 休憩(20分) / 第2部(1時間40分)
劇場: シアターコクーン
チケット代: S席 11,000円(F列) [パンフレット代:2,000円]


【感想】

私自身が、松尾スズキさんの"毒"に慣れてきたのか、覚悟していた(『ふくすけ』『キレイ』のような)ほどのドギツさはありませんでしたが、それでも十二分に松尾ワールドの面白さは感じられました。

生まれてすぐに母親と離れ離れになってしまった津田万治(阿部サダヲさん)。
義母(吉田羊さん)に育てられますが、いじめられて、反省文を書く毎日。
しかし、その結果、文章力が上達して小説家になります。
ある日、月田川賞の候補になったことを機に、数(吉田羊さん)との結婚を薦められますが……。

ツダマン(津田万治)にフィーチャーした話というより、彼と彼を取り巻く人々の群像劇といった様相。
女中・オシダホキ役の江口のりこさんが、語り手として物語を進めます。
大阪弁で淡々としゃべる様が、素で演ってるようにもみえて、妙な可笑しさがありました。

話は昭和初期から戦後数年くらいまでを描いています。
その頃に起きた出来事をヒントに書いているだけなんでしょうが、テーマをいろいろ盛り込み過ぎて、ちょっと散漫になっているようにもみえました。
南京虐殺や従軍慰安婦などのエピソードもサラッと流す感じだったし。

それでも、そこここに見え隠れする問題は、現在にも共通しているようにも思えて。
例えば、政府や軍による検閲は、コンプライアンスやネット民による過剰なチェックに通じているようにも見えます。

次々といろんな出来事が起きるので、説明セリフとまではいきませんが、状況説明的なセリフが多くて、間伸びしてしまうところもあったようにも思います。
笑いを随所に織り込んでいるのも、確かに面白いんですが、まるで情報番組で、こちらは早く答えを知りたいのに、芸人がチャチャを入れて無理やり笑いどころを入れているようなテンポの悪さみたいなのが感じられる部分も。

そういう時こそ、語り手の江口のりこさんが仕切ってくれるといいんですが、何故か中盤からはあまりストーリーテラーとしての役目はしなくなって。
ラストシーンで、語り手としての本当の役割が判明しましたが、その頃にはオープニングで登場した3人の亡霊の存在も忘れてしまってました。
もっと江口のりこさんに語らせて欲しかったな。

そんな中、間宮祥太朗さんは、真面目とおふざけのバランスが良くて、阿部サダヲさん、村杉蝉之介さん、皆川猿時さんといったクセ強の方々と対等に渡り合っていましたね。

全体を通して際立ったのは"女性たちの強さ"。
待遇的には虐げられてますが、それを生き抜いていく"しなやかさ"みたいなのが感じられました。
最後、吉田羊さんが見栄を切るようにタイトルを叫ぶとこなんかは、カッコよかったですねえ。