ジョン王 ジョン王

作: ウィリアム・シェイクスピア
翻訳: 松岡和子
上演台本・演出: 吉田鋼太郎
出演: 小栗旬、吉原光夫、吉田鋼太郎、中村京蔵、玉置玲央、白石隼也、高橋努、植本純米、間宮啓行、廣田高志、塚本幸男、飯田邦博、坪内守、水口テツ、鈴木彰紀、堀源起、阿部丈二、山本直寛、續木淳平、大西達之介、松本こうせい、酒井禅功、五味川竜馬
演奏: サミエル、武田圭司、渡邊達徳、熊谷太輔、渡辺庸介
観劇日: 2023年1月11日(水) 13:30
上演時間: 第1部(80分) / 休憩(20分) / 第2部(80分)
劇場: シアターコクーン
チケット代: S席 11,000円(E列) [パンフレット代:1,800円]


【感想】

今年(2023年)の観劇初めは、この舞台。
久しぶりの生・小栗さん 笑。
大河は観てなかったけど、やっぱし舞台映えする俳優さんですね。

イングランド王・ジョン(吉原光夫さん)は、正当な王位継承者であるアーサー(子役:酒井禅功さん)に代わって王の座についています。
そのジョン王の下に、先王リチャード1世の私生児だと名乗るフィリップ(小栗旬さん)が現れます。
一方、アーサーを王にするためにフランスに頼った母・コンスタンス(玉置玲央さん)。
フランス王・フィリップ2世(吉田鋼太郎さん)は、ジョン王に対して、王位をアーサーに譲り、領地を引き渡すように要求してきます。
それを拒んだジョン王は、私生児・フィリップを従え、フランスとの戦いに赴きますが……。

チラシを見た時点では、てっきり小栗さんがジョン王を演るんだと思ってましたが、違うんですね。
でも抜群の存在感だし、やっぱ華があります。
また、吉田鋼太郎さんはもちろん、吉原光夫さん、中村京蔵さん、玉置玲央さんらのメインどころは、難しくて、でも詩的なシェイクスピアのセリフをとても聴きやすく喋ってらして(何人かはちょっと聴き取れない方もいらしたので)、こういうところは流石だなと。

さて、お話自体は、いかにもシェイクスピアらしい悲劇なんですが、吉田鋼太郎さんは、この物語に強烈なメッセージを込めていました
でも、そのことを話そうとするとネタバレになってしまうので、まだ観ていない方は、ここから先は読まないように!


------- 以下、ネタバレ ----------


(以下、多分に私の個人的な解釈が含まれていますで、間違ってるかもしれませんが)

ステージの中央には城門のようなセットがあり、開演10分ほど前になると、その奥にある劇場の搬入口の扉が開けられて、外の景色がそのまま見えるようになります。
開演と同時に、ジーパンに赤いパーカー姿、黒いリュックを担いで、マスクをした小栗旬さんが、その搬入口から入ってきます(こんなシンプルな格好しててもカッチョイイんですよね)。
もの珍しそうに城門を眺め、スマホで自撮りなどをする小栗さん。
すると、突然、子供が何かから逃げるように走ってきて、水たまりで転んだり、上から死体(人形ですが)が落ちてきたりします。
そして暗転。『ジョン王』の物語が始まるというオープニングです。
まるで現代からタイムスリップしてきたかのような演出。
つまり、彼は現代人である我々観客の代わりなんだということが分かります。

そして、劇中では、様々な人々の思惑によって戦いが繰り広げられます。
時折、不吉な予兆のように降ってくる死体や肉塊。その多くは女性や子供です。
でも演者たちには、それらが見えていないかのようです。
死体の服装が洋服だったので、もしかしたら、現代の戦争の被害者を表していたのかな。だから演者たちには見えなかったのかも。
被害に遭うのは、いつだって戦争を始めた"偉い人たち"ではなく、一般の罪もない市民ってことでしょうか。
強烈な「反戦」のメッセージです。

カーテンコールでは、みんなが拍手に応えている中、小栗さんだけが最前列で空を見つめて佇んでいます。
全員が舞台から捌けた後も、一人残る小栗さん。
そこに城門から機関銃を構えた兵士が入ってきます。
小栗さんに銃を突きつける兵士。
小栗さんは諦めたかのように防具を脱ぎ、オープニングのパーカー姿に戻ります。
そして、入ってきた時と同じように、劇場の搬入口から退場します。
その間も、兵士はずっと銃の照準を小栗さんに合わせたままです。
ゆっくりと閉まる城門。その城門には……。
オープニングからずっと気になってましたが、やはりあれは"菊の紋"ですよね。
兵士は菊の紋に向けてしばらく銃口を向けた後、今度は反転し、我々に向けて銃を構えます。
そして暗転。
そう言えば、劇中でジョン王が、自国イングランドのことを「島国である我が国は」と何度か言ってましたね。
同じ島国である日本。戦争なんて遠い国の出来事と思ってるんじゃないか、と突きつけられたようなエンディング。
このあとは、拍手をしても演者が再び出てくることはありませんでした。

素晴らしい演出でした。