宝飾時計

作・演出: 根本宗子
出演: 高畑充希、成田凌、小池栄子、伊藤万理華、池津祥子、後藤剛範、小日向星一、八十田勇一
Musician: 磯部舞子(バイオリン)、島岡万理子(ヴィオラ)、松尾佳奈(チェロ)、大谷愛(ピアノ)
Swing: 椙山さと美
テーマ曲「青春の続き」: 椎名林檎(作詞作編曲)
観劇日: 2023年1月18日(水) 14:30
上演時間: 第1部(70分) / 休憩(15分) / 第2部(70分)
劇場: 東京芸術劇場 プレイハウス
チケット代: S席 9,800円(B列:最前列) [パンフレット代:1,800円]


【感想】

久しぶりの根本宗子さんの舞台。
数年前は「やっと本多劇場で芝居がうてた」と喜んでいましたが、キャリアを積んで、あれよあれよと言う間にプレイハウスに進出!
今回、テーマ曲が椎名林檎さん作ということも注目されてますが……。

ゆりか(高畑充希さん)は、10歳から19年間、舞台『宝飾時計』の子役を演じてきました。
昨年、ようやく役をおり、今はマネージャの祐太郎(成田凌さん)とつきあっています。
今年、舞台の20周年記念公演で、歴代の主人公を集めた特別カーテンコールを催すことになり、初演で一緒にトリプルキャストを努めた真理恵(小池栄子さん)や杏香(伊藤万理華さん)と再会しますが、男の子役だった勇大くん(小日向星一さん)の話題になり……。

始まってすぐに怒涛の会話劇
時折、毒を含んだセリフが出てくるあたりも根本宗子さんらしい。
物語は、過去と現在を行ったり来たりしながら進みますが、盆の回転をうまく使ったり、キャストの3人が子役時代と現在とで喋り方を切り替えたりするので、全く混乱することはありませんでした。

根本宗子さんの舞台と言えば、クズ男(もしくはダメ男)が出てくるのも定番
クズと言ってもギャンブルや酒に溺れたり、金や女にだらしなかったり、暴力を振るったりと様々ですが、今回はそういったタイプではなく、でも女性から見たらおそらくクズに入るだろう男たち。
デリカシーがない舞台プロデューサー(八十田勇一さん)。
空気を読めない真理恵のマネージャー(後藤剛範さん)。
そして、表面上はとても優しいけど、自分の気持ち優先で、言って欲しい言葉を言ってくれない祐太郎(成田凌さん)。

男の私から見ても一番イライラするのは、やはり祐太郎かな。なんか煮え切らない感じがイラッとします。
最後の最後に、ようやくゆりかが待ち望んだ言葉を口にしますが……でもあれは幻影だったんだろうな。
ゆりかは、自分を殺して、言いたいことも言えない性格なので、だから祐太郎(子役の時は勇大)と共鳴したんでしょうけど、小さな引っ掛かりを胸に抱えたままモヤモヤしている感じが何とも言えず……その辺の心情表現は、さすがの高畑充希さんです。
そう言えば、彼女が、現代の日本を舞台にしたストプレ(最後にテーマ曲の歌唱はありますが)を演るのって珍しいのでは?
『奇跡の人』やミュージカルもいいけど、こういうのももっと演って欲しいですね。

プロデューサーは、まあよくいるオヤジって感じ。
真理恵のマネージャーは、実際にこんな人がマネージャーだったら、さぞやイライラするだろうと思いますが、側から見てる分には面白い(根はいい奴みたいだし)。
そんな彼らに対して、真理恵がズバズバと嗜めてくれるのが、観ていてスッキリします。
小池栄子さん、地で行ってるんじゃないかってくらい小気味いい。
後藤剛範さんとの掛け合いは、前半の見どころのひとつです。

もう一人の子役・伊藤万理華さんも良かった
ステージママ(池津祥子さん)の影響でしょうか、とても我儘な子役っていうのが、いかにもいそうな感じで。
でも大きくなって、挫折して、引きこもりになってしまうという、3人の中ではもしかしたら一番複雑な役どころでしたが、個人的には一番感情移入できました。

物語は、女性3人のそれぞれの人生を、子役あるあるなんかも(背が伸びない、子役以降のキャリアが難しいなど)盛り込みながら進んでいきますが、一幕の終わりで、急にファンタジー的な展開になってビックリ!
この展開を受けて、二幕の前半は一幕のリフレインが始まるんですが、事情がわかって観ると、これまた切ないというか……。
ただ、ちょっとリフレインが長すぎた感じはしましたね。それがもったいなかったかな。

もったいないと言えば、舞台の中央には盆があって、その盆を中心にひと回り大きな円形のステージが設られているんですが、円形の両端、つまり上手と下手には何もないんです。
だから、ほとんど使われないデッドスペースみたいになっていて。
せっかくの大きな劇場なんだから、もっと贅沢に空間を使って欲しかったなと。

最後に、高畑充希さんがテーマ曲を情感たっぷりに歌い上げます。これがまた素晴らしい!
昨年末にテレビ(FNS歌謡祭だったかな?)で披露しているのを聴いた時は、「椎名林檎らしい変な歌(すみません)」としか思いませんでしたが、この物語の最後に聴くと全然違って。

全てを観終わって、タイトル『宝飾時計』の深い意味に気付かされました。