作: テネシー・ウィリアムズ(ガラスの動物園) / 別役実(消えなさいローラ)
翻訳: 田島博(ガラスの動物園)
上演台本・演出: 渡辺えり
出演: 尾上松也、吉岡里帆、和田琢磨、渡辺えり
MUSICIANS: 川本悠自(コントラバス)、会田桃子(ヴァイオリン)、鈴木崇朗(バンドネオン)
観劇日: 2023年11月9日(木) 18:00
上演時間: 第1部(2時間30分) / 休憩(15分) / 第2部(1時間)
劇場: 紀伊國屋ホール
チケット代: 10,000円(A列:最前列) [パンフレット代:1,500円]
【感想】
2本立ての舞台って、初めてかも。
でも『ガラスの動物園』だけでも2時間くらいあるはずだから、上演時間はどうなるんだろう?と思っていたら、なんと『ガラスの動物園』は2時間30分の休憩なし。
そして15分の休憩を挟んで、『消えなさいローラ』を1時間。
行く前から、体力的に(そして膀胱的に)心配になりましたが……。
まずは、『ガラスの動物園』から。
セットの中心は、ウィングフィールド家のリビング&ダイニング。
でも、家の中なのに電信柱があります。
後から調べてみたら、どうやら別役さんの作風を踏襲しているみたいですね(別役さんの作品では、舞台のどこかに電信柱が1本立っていることが多いらしく、それは宮沢賢治のファンであることと、『ゴドーを待ちながら』の1本の木に由来しているらしい)。
また、劇場に入った時に客入れのBGMとして流れていた昭和のフォークソングっぽい歌(何となく、つかさんとかアングラ的な匂いがします)も、もしかしたら、後半の別役さんの世界と繋げるためなのかも。
でも、劇が始まってしまえば、演出は至ってオーソドックスでした。そりゃそうか 笑。
1930年代のアメリカ・セントルイスが舞台。
トム(尾上松也さん)は倉庫で働きながら、母・アマンダ(渡辺えりさん)と姉・ローラ(吉岡里帆さん)の三人で暮らしています。
父親は、だいぶ前に家を出てしまいました。
母は口うるさく、姉は脚が悪くて極度のはにかみ屋。
そんな生活に嫌気がさしていたトムですが、ある日、母からの頼みで、ローラに男性を紹介してあげて欲しいと言われ、同僚のジム(和田琢磨さん)を食事に招きます。
ジムは、ローラがハイスクール時代に憧れていた人でしたが……。
この作品は2年前に、岡田将生さん、倉科カナさん、麻美れいさん、竪山隼太さんのキャストで観ています。
岡田将生さんのトムは、煙草を吸う時に弱々しい咳をしていましたが、尾上松也さんのトムは、そんな素振りは見せてませんでした。
語り部の時は朗々としたよく通る声で、さすが歌舞伎役者って感じ。
母親の過干渉に辟易しながらも、なかなか家を出る決心がつかないといったジレンマを抱えている様子も見事でした。
それにしても、アメリカ人って、日本人のような反抗期みたいのって無いんでしょうか?
日本なら、あれだけ色々うるさく言われたら、もう口をきかなくなると思うんですが、トムは喧嘩した翌朝に、しぶしぶながらも謝っていて。
こういうところは、愛情表現をストレートに出す欧米ならではなのかな?なんて思いました。
ローラ役の吉岡里帆さん。
脚が悪くて、極度のはにかみ屋(人見知り)っていうのは倉科カナさんのローラと同じですが(当然ですけど)、ちょっと身体障碍的な感じも(もしかしたら軽い知的障碍も?)あったように見えて。
そのせいもあってか、トムより2歳年上なのに、妹のように感じられました(実年齢的には尾上松也さんの方が8つ年上なので、そのままって感じ)。
でも、そのことによって、ローラの儚さがより強調されて良かったと思います。
前半のオドオドした態度から、憧れのジムと打ち解けて、最後にまた失意に沈むといった、起伏の激しい難役ですが、私はかなり感情移入できました。
ジム役は和田琢磨さん。
前回も思いましたが、私はジムっていい奴だと思ってます。
最後にキスしちゃうのは軽率だし、色々と夢を語っていますが、たぶん口先だけなんだろうと思いますが、あの軽さだから、あの優しさを出せるんだろうなと。
そのへんの匙加減が、とても上手くて。
アマンダ役の渡辺えりさんは、麻美れいさんとはまた違った圧で攻めてきましたね 笑。
ちょっと"大阪のおばちゃん"を彷彿とさせるキャラクターは、身内にいたらウザイけど、側から見たら面白いです。
ジムをもてなすに当たって、昔の派手なドレスを引っ張り出して着るところでは、背中に大きな"ツギ"が施されていて(トムがビックリして何度も見るくらいの)。
あぁ、若い時はあの分だけ痩せてたんだなぁと、南部で暮らしていた頃を想像させる仕掛けも楽しかったです。
観劇前に危惧していた体力的および膀胱的な心配は杞憂に終わり、あっという間の2時間半でした。
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15分の休憩を挟み(トイレはかなり混雑してましたが)、後半は『消えなさいローラ』です。
これ、ローラ役は、吉岡里帆さん、和田琢磨さん、渡辺えりさんのトリプルキャストという、かなりトリッキーな試み。
いや、ローラなんだから吉岡里帆さんでしょ、と思ってこの回を選びましたが、巷の感想を見ると、配役によって、ちょっとずつ設定を変えているみたいですね。
家を出たトムを何年も待ち続けるローラ(吉岡里帆さん)。
室内は荒れ果て、ガラスの動物たちも砂埃に埋もれている状態です。
そこに、葬儀屋を名乗る男(尾上松也さん)がやってきて……。
『ガラスの動物園』の後日譚を描く不条理劇、と紹介されますが、確かになかなかに手強かったです 笑。
何もせずに待つだけっていうのは、『ゴドーを待ちながら』(私はまだ観たことないですが)に代表されるように、不条理劇の定番みたいですね。
でも考えてみたら、『ガラスの動物園』も、本質は同じように"待っているだけ"なのかもしれません。
アマンダは出て行った夫を、ローラはただ時間が過ぎるのを。
『消えなさいローラ』のローラは、ロボトミー手術を受け、その影響なのか、時折アマンダになったりもします。
ロボトミー手術って、かなり飛躍した設定を持ってきたなと思いましたが、テネシー・ウィリアムズのお姉さんが実際にやってたんですね。
『ガラスの動物園』がテネシー・ウィリアムズの自伝的作品とは知ってましたが、このエピソードは把握していませんでした。
なるほど、だからユニコーンのツノが折れるというシーンに繋がるのかと。
作者の背景まで知るって大事ですね。
さて、物語の方は、葬儀屋と名乗っていた男が実は探偵社で、アマンダが既に亡くなっているのではないかということを調査しにきているという、ちょっとミステリー的な展開になっていきます。
でも、別役さんの作品だから、それをそのまま受けとっていいのか? それとも何か深いものが隠されているのではないか? と悩んでしまいます。
最後は幻想的な結末を迎え、物語としては楽しめましたが、本質を捕まえられたかどうかと問われると、うーんという感じ。
渡辺えりさんや和田琢磨さんのローラも観てみたくなりましたが、さすがに『ガラスの動物園』を何度も繰り返し観るのは…… 苦笑。
今回、最前列での観劇でしたが、テーブルの上は何が載っていたのか一切見えず。
その代わり、間近過ぎるくらいの間近で、迫力ある演技をたっぷりと3時間半も堪能できました!