お勢、断行

お勢、断行

原案: 江戸川乱歩
作・演出: 倉持裕
出演: 倉科カナ、福本莉子、大空ゆうひ、江口のりこ、池谷のぶえ、正名僕蔵、梶原善、千葉雅子、堀井新太、粕谷吉洋
観劇日: 2022年5月16日(月) 19:00
上演時間: 2時間(休憩なし)
劇場: 世田谷パブリックシアター
チケット代: S席 7,500円(2階A列) [パンフレット代:1,500円]


【感想】

2年前(2020年2月)、初の緊急事態宣言発令により、開幕直前になって全公演が中止になった舞台。
一部のキャストが変更されましたが(上白石萌歌さんが福本莉子さんに、柳下大さんが堀井新太さんに)、今回はひとまず幕が上がってホッとしています。
地方公演含め、全公演がつつがなく上演できることを祈るばかりです。

以前(2017年)、同じく倉持さん演出の『お勢登場』も観ましたが(そういえば『お蘭、登場』っていうのも観たっけ……ややこしい)、てっきりこの舞台も江戸川乱歩原作かと思いきや、お勢を題材にした倉持さんのオリジナル作品だとか。だから江戸川乱歩”原案”になっているのか。
セリフの口調なんかも、とても江戸川乱歩っぽくて。

千代吉にはかなりの資産がありますが、時折、暴力的になり、後妻の園(大空ゆうひさん)にも手を上げる始末。
ある日、寄付金目当てに屋敷を訪れた代議士の六田(梶原善さん)は、灰皿で頭を殴られて怪我をしてしまいます。
腹を立てた六田は、園と結託し、千代吉を狂人にしたて、精神病院へ入院させようと目論みますが……。

千代吉は声だけで、舞台には登場しません。
そして、お勢(倉科カナさん)は、この屋敷に身を寄せている女流作家という役どころ。
身を寄せた経緯なんかは、含みを持った描き方しかしていませんが、ここらへんは『お勢登場』のお勢を知っていると、容易に想像がつくでしょう(まあ知らなくても、倉科カナさんの纏っている雰囲気でわかるでしょうが)。
千代吉を精神病院へ幽閉させる計画には、病院長(正名僕蔵さん)や女中(江口のりこさん)なども巻き込んでいきますが、お勢はそれには参加しません。
なので、主人公の割には意外と登場シーンは少ないんですが、冷静に高みの見物をしているのが却って不気味で……でも倉科カナさんが、それを妖艶に演じています。

セットはボックス型の装置が3つあって、それがいろいろ移動して場面を作り出しています。
ボックスの屋根にも上がれるようになってるんですが、お勢は上からの登場が多くて、みんなの争いを見下ろして楽しんでいるという感じがします。
上り下りには、結構な段差の階段を使うんですが、倉科カナさんは着物姿で難なくこなしていて(しかも手すりもなし)、やっぱ体幹とかバランスとかが凄いんだろうなと感心して観てました。

さて、千代吉を助けたいと思っているのは、娘の晶(福本莉子さん)と姉の初子(池谷のぶえさん)だけ。
でも初子の方は、心配や愛情からというよりは、千代吉からもらえるお小遣い(金銭的援助)がなくなる恐れがあるからという打算的な理由です。
だから後妻の園(大空ゆうひさん)と揉めたりするんですが、そのやり取りが面白い!
池谷のぶえさんの本領発揮といった感じです。

先に書いたように、ある意味、主人公が脇役になるようなストーリー展開なので、他のキャストもそれぞれの見せ場があるように構成されています。
私は特に、終盤、看護師役の千葉雅子さんが、淡々と語るシーンがとても印象に残りましたね。

お勢が何を”断行”するのか?
最後は、やっぱりお勢が主役だったねという終わり方でした。


※ この日は終演後にアフタートークがありました。
登壇者は、倉科カナさん、池谷のぶえさん、正名僕蔵さんで、正名僕蔵さんが進行役でした。
2年を経ての上演に対する思いや舞台裏の話など、十数分だけでしたが、興味深い話を聞くことができました。
特に、正名僕蔵さんは、杖をついている役なんですが、そうなった理由は、暴走する六田(梶原善さん)を止めようとする時、何もないと簡単に止められてしまいそうなので、杖をついていたらどうかと倉持さんに進言したとか。なるほど。
正名僕蔵さんが、世田谷パブリックシアターに初めて立ったというのもビックリです。